読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

厚生労働省が医師の労働時間について納得いかないアンケート結果を公表したので一言どころではなく申したい

スポンサーリンク

f:id:ankylosaurus:20170408214833p:plain

どうも、あんきろさんです。
前回の記事(乳児ボツリヌス症での死亡例のニュースを聞いて思うこと)に書いた乳児ボツリヌス症での全国初の死亡例のニュースにすっかり隠れてしまいましたが、4/7にはもう一つ僕の心をざわつかせるニュースが飛び込んできました。

 

www3.nhk.or.jp

厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が行ったアンケート調査の結果で、20代の勤務医の1ヶ月の残業が60時間程度だったという内容です。

僕の感覚ではあまりに現実とかけ離れた内容なので、「そんなふざけたことあるか!」と思って記事を書く次第です。

 

この記事を読んでいる人の感覚として、1ヶ月の残業が60時間程度というのはどう思いますか?
多いと思う人もいるかもしれませんし、少なくはないけど思ったほどは多くないと思う人もいるかもしれません。

僕は自分の経験からしか判断できませんが、おそらく多くの医師はこの時間を見て「こんなに少ないはずがない」と思うに違いありません。

60時間といえば、1日平均2時間です。
9時から17時が普通の就業時間だとして、平日は夕方の回診をして書類などを書いて19時まで働き、休日も9-11時に患者さんを見に行けば、それであっという間に60時間です。
朝からカンファレンスをする病院・科も多いでしょうし、若い医師はカンファレンスの前に患者さんを見ておかなければいけないので、朝は7時くらいから回診する人も多いと思います。
もちろん患者さんが落ち着いていれば19時くらいには仕事も終わって帰れるかもしれませんが、急変や緊急入院などがあれば真夜中まで帰れないこともありますし、そうなるとあっという間に時間外は膨れ上がっていきます。

20代なので、多くが初期研修医(医者になって2年間)もしくは後期研修医(専門を決めた後の3年間)だと思うので、医者になって一番忙しい時期です。
最近は「17時になると消えていく研修医がいる」とか言われていますが、多くの初期研修医は早く一人前になろうと身を粉にして働いていますし、後期研修医は多くの病院にとって一番の戦力だと思うので、科にもよりますが、誇張ではなく死ぬほど忙しい人もたくさんいると思います。
とてもじゃないですが、多くの20代の勤務医にとって時間外が60時間で納まるとは思えません。
この時間外に当直・オンコール(家に帰ってもいいけど、何かあれば呼び出される当番)の時間は含まれていないので、実際に働いている時間はもっと長いのですが、それにしても60時間は少ないと思います。

以前に医学部受験の記事(医学部受験について小児科医がちょっと語ってみるよ)に書きましたが、僕が後期研修医をやっていた頃のmaxの時間外労働は月150時間くらい(+日直・当直で100時間くらい)でした。
これはすごく忙しい時期だったので特別ですが、普通に働いている時でも80時間を下回ることはあまりなかったと思います。

それなりに忙しい病院の後期研修医をやると、内科でも外科でもこれくらいじゃないかと思いますし、もっと働いていた同年代の先生もたくさんいました。
僕のは5年くらい前の話ですが、もっと上の先生なんかは、平気で200時間くらい時間外をやっていた(だからお前たちはもっと働け)という話をよく言ってきます。

あと、この記事には書かれていませんが、アンケート結果を見ると時間外が一番多い診療科が救急なのもちょっと首を傾げたくなるところです。
確かに救急は非常に忙しいのですが、忙しい分シフトの管理が(医師の世界の中では)きっちりしていて、時間になると引き継ぎをしていてちゃんと勤務を交代している印象です。
外来なので厳密な意味での担当患者さんもいないので引き継ぎもやりやすいですし、入院で担当患者がいる内科や外科、小児科の方が急変などの時に替えが効かない状況が多く、長時間勤務になりやすい印象です。
とはいえ、調査結果では救急科の週の労働時間が55.9時間(1日平均で時間外が2時間ちょっと)なので、それを踏まえてまぁこんなもんだろうなという感じです。
つまり、救急が多いというより内科や外科などが低すぎる結果になっていると思います。

さて、ここまで僕の印象と大きくかけ離れたアンケート調査結果について見てきましたが、なんでこんな状況になっているのでしょう?
ただ単に僕が過ごした20代の状況が異常だったという可能性もありますが、自分の周りを見てみても、とてもではないですがこのアンケート結果が普通だとは思えません。

そこで気になるのがアンケートの回収率です。
このアンケートは全国の約10万人の医師を対象に調査票を送付して回答してもらっているのですが、なんとアンケートの回収数は15677件です。
配布数が約10万とはっきりしないのですが、回収率は多く見積もっても16%程度です。
「あなたはきのこ派?それともたけのこ派?」みたいなアンケートだったら16%でもいいのですが、忙しさに関するアンケートで回収率が16%というのはちょっと問題がある気がします。

結果を解釈する上で問題となるのが、この16%の人たちの忙しさが集団全体の10万人(さらに言えばこの10万人が全国の医師全体)の忙しさと同じ分布を示すかどうかということですが、普通に考えれば、忙しい人ほどこうした(直接は)自分のためにも患者さんのためにもならないアンケートは後回しにして忘れる傾向があると思うので、おそらくアンケートに回答した16%は集団全体の中でも比較的余裕のある勤務時間の少ない集団ではないかと思われます。
少なくとも、月に100時間以上時間外労働をして、その上で当直もしている人がこうしたアンケートに答えてくれる割合はかなり低いでしょう。

僕はアンケート調査を元にした臨床研究はしたことがないので、その方法論について詳しく勉強したことはないのですが、バイアスがかかっていると容易に予想できるこの結果をもとに実態に即した解析ができるかは甚だ疑問です。
むしろ、現実に則さない結果に基づいて行われる解釈ほど有害なものはないと思うので、このアンケート結果が信頼に足るものなのかを検証していただきたいですね。
これを読んでいる人の中に統計の専門家の方がいらっしゃったらぜひ教えてください。

最終的には、この過小評価をされたのではないかと思う結果を受けても、医師は過重労働であるから負担軽減を目指すという結論になっているので方向性としては問題ないと思うのですが、出発点が間違っているロードマップにどれほどの有効性があるのでしょうか。
患者さんの命を預かっていることと、特に若手にとっては早く一人前にならないといけない、そしてその後も研鑽を続けないといけないことから、ある程度の長時間労働は医者にとって切り離せないものだと思いますし、僕は単純に労働時間を減らせと言いたいわけではありません。
僕自身も、もう2度とやりたくないですが、20代の文字通り死ぬほど忙しく働いた時期は今となっては非常にいい経験です。もう2度とやりたくないですが。
そんな中で、女性医師が増えさらに女性の社会進出が進むであろうこれからの社会で、男性医師・女性医師ともにさらに重要となってくる家庭生活との両立などといった課題とどのように向き合っていくかについては、正確な現状把握に基づいた対策が必要と思われます。
それがこんなアンケート結果に基づいて判断されるなどというのは、ちゃんちゃらおかしいとしか言いようがありません。

厚労省のお役人の皆様におかれましては、10万人を対象にしたアンケートを行われて満足していらっしゃるかもしれませんが、現実をもうちょっと詳しく知っていただくには、アンケートの回収率を高くする工夫をするか、1週間ほど若手と一緒に働いていただくことが必要かと思いますがいかがでしょうか?