読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

読売新聞が読者のミスリードを誘うような医療記事を書いているので一言申したい

スポンサーリンク

f:id:ankylosaurus:20170418121845p:plain

どうも、あんきろさんです。

なんか最近の私の記事は一言申してばかりですね。
忙しすぎてストレスが溜まっているわけではないと思うのですが。

さて、昨日のyahooニュースに下のような記事がありました。

headlines.yahoo.co.jp

なかなかセンセーショナルなタイトルです。
タイトルからは、いかにも無痛分娩で妊婦さんの死亡例が多いから無痛分娩は危険みたいな内容に思えます。
果たして本当にそうでしょうか。
ちょっと見ていきたいと思います。

結論から言いますと、無痛分娩で妊婦死亡の危険率が上がるかと言うと、答えは「危険率が上がるというデータはない」ということになると思います。

実際に、この記事の中でも厚生労働省研究班の主任研究者の言葉を引用して、

池田教授によると、国内の無痛分娩は近年、増加傾向にあり、データ上、無痛分娩で死亡率が明らかに高まるとは言えないという。

という一文があります。

日本を含む東アジア圏は儒教思想の影響か、子どもは痛い思いをして産まないといけないという意識がまだ強く残っているのでなかなか無痛分娩は普及しませんが、欧米ではかなりの割合で無痛(和痛)分娩が行われていて、それでも無痛分娩による出産で妊婦死亡が上がるというデータはおそらくないはずです。
専門外なのでそこまで詳しくありませんので、あったらすいません。教えてください。

記事の内容を詳しく見ていきましょう。
タイトルにある「13人死亡」に言及した部分を引用します。

研究班は、2010年1月から16年4月までに報告された298人の妊産婦死亡例を分析。無痛分娩を行っていた死亡例が13人(4%)あり、うち1人が麻酔薬による中毒症状で死亡、12人は大量出血や羊水が血液中に入ることで起きる羊水 塞栓そくせん 症などだったという。

要は、2010年から6年余りの間に300人程度の妊婦さんが出産に関連して亡くなり、そのうち4%が無痛分娩を行っていた。無痛分娩をしていて亡くなった13人のうち1人は麻酔薬の中毒症状で、残りの12人は普通の出産でも起こる合併症によって亡くなった、ということです。

さて、これをもって無痛分娩は危険と言えるでしょうか。
まず、ポイントは全妊婦死亡のうち4%が無痛分娩だったということですが、これが高いか低いかを判断するには、全出産のうち何%が無痛分娩を行ったかというデータが必要です。
本当はもっと複雑な統計処理が必要ですが、無痛分娩を行った割合が4%より高ければ(例えば10%)、むしろ無痛分娩の方が安全という可能性が高まりますし、4%より低ければ(例えば2%)やっぱり無痛分娩は危険な可能性が高いということになります。
僕はちっぽけな小児科医なので、無痛分娩に関するデータはあまり持ち合わせていないのですが、厚生労働省が2008年に行ったアンケートで2.6%という数字があります。
そこから10年たっているので、近年の風潮からは無痛分娩は少しは増えていると思いますので、多分4%と大きくは乖離がないのではないかと思います。
こういったデータから冒頭の池田教授は無痛分娩で死亡率が明らかに高まるとは言えないと言っているのだと思います。

実際に無痛分娩が危険かどうかを判断するには、死亡例の中の無痛分娩の割合を見るのではなく、無痛分娩を行った出産の中でどれくらい合併症が起こって死亡率がどれくらいか、ということを無痛分娩以外の出産でのものと比較する必要がありますし、さらに信頼性の高いデータを得るためには、年齢層や妊娠経過などの背景をある程度揃えた集団を作って、ランダムに無痛分娩か普通分娩かに割り振って行って、両者で合併症や死亡率に差があるかを見る必要がありますが、まぁ出産という事柄を扱うので、こういった臨床試験はできないと思いますが。

いずれにせよ、現時点で無痛分娩が危険というデータはないと思います。
ただ、今回示された死亡例のうち1例は麻酔薬の中毒症状(おそらく呼吸抑制だと思いますが)で亡くなっていますし、無痛分娩は計画出産になることも多いと思うので、無痛分娩に普通分娩以上の注意が必要だというのはその通りだと思います。
それを踏まえて、記事の中で冒頭の池田教授の言葉として触れられているように

「陣痛促進剤の使用や(赤ちゃんの頭を引っ張る)吸引分娩も増えるため、緊急時に対応できる技術と体制を整えることが必要だ」

ということになるのだと思います。
つまり、この提言は「無痛分娩は死亡例もあって危険だから気をつけましょう」ではなく、「無痛分娩は不測の事態が起こることもあるからしっかり対応できるように気をつけましょう」という意味でなされたのだと思います。
この提言は産婦人科学会のシンポジウムかなんかで出されたみたいで、それを私は実際に聞いていないので推測でしかありませんが。

それをあたかも無痛分娩は危険みたいなタイトルをつけるのは大手新聞社としてはいかがなものなんでしょうか。
どこぞの新興メディアじゃあるまいし。

ちなみに、NHKも同様の内容のニュースを配信していますが、タイトルはこんな感じです。

www3.nhk.or.jp

これだったら納得できます。
提言の内容そのものがタイトルになっていますので。

どちらがキャッチーなタイトルかははてなブックマークの数を見ていただければ明白ではありますが、公平な立場で情報を提供しなければいけないメディアとして、どちらが情報の受け手に対して優しいかもまた明白ではあります。

どこぞの炎上商法で稼がないといけない人たち(別に特定の誰と言っているわけではありませんよ、概念としてのそういった存在についての言及です)じゃあるまいし。

この記事のタイトルだけ見た50-60代のシニアなお姉さま方たちが、自分の息子の奥さんが「無痛分娩をしたい」と言った時に「無痛分娩で死亡例もあって危険なんでしょ、やめときなさい。そもそも子どもなんて痛い思いをして産んでナンボよ」みたいなことを言っている様がありありと浮かびます。

大手メディアにはタイトル一つでそういった影響があることを十分自覚しておいていただきたいものです。
特に、医療情報については、間違った(誤解を誘う)情報に振り回されるのは、辛い思いをしている患者さんやその家族、そしてその診療を行う医療者です。

今回の読売新聞の報道で、「無痛分娩をしようかな」と思っていた妊婦さんが少なからず無痛分娩をやめるのではないかと思います。
その事態は、この緊急提言が意図している「できるだけ安全に無痛分娩を受けてもらいたい」という思いとは全く逆の結果ではないかと思うのですが、読売新聞さんいかがでしょう。