読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

パパのお父さんはへっぽこ小児科医

へっぽこ小児科医によるへっぽこ育児ダイアリー+α。父親と小児科医の視点から日本の医療と世相を斬って斬って斬りまくる、なんてことはなく、日々思ったことを綴ります。何かと大変な育児、読んでいただいた人に少しでもお役に立てれば良いのですが。。。

その予防接種、本当に必要ですか?〜ロタウイルス編〜

スポンサーリンク

f:id:ankylosaurus:20170309190120p:plain

どうも、あんきろさんです。

少し前に予防接種の総論の記事(「その予防接種、本当に必要ですか?」、「その予防接種、本当に必要なんです。」)を書きましたが、ブクマもたくさんいただき反響も大きかったので、個別のワクチンについても少しずつ書いていこうと思います。

今回は「ロタウイルスワクチン」編です。
めちゃくちゃ長いので心して読んでください。

ちなみに、私はワクチンは必要だと思っておりますので、タイトルを見て「ここにワクチン否定派がいた!」と喜んでやってこられた方は空振りです。期待に添えずに申し訳ありませんでした。でも読んでいってもらえると嬉しいです。

 

長いので目次付きです。

はじめに

ロタウイルスのワクチンは数ある予防接種の中でも、お父さんお母さんにとって一番難しいワクチンではないでしょうか。

一番はじめの任意接種のワクチンであり、「打った方がいいと思うけど、別にいらないと思ったら打たなくてもいいよ」とか言われても「どっちやねん!」という感じでしょうし、なおかつ生後14週6日(3ヶ月半くらい)までという接種開始時期のタイムリミットがあって悩む時間もあまりありません。
おまけに全部で3万円前後となかなか厳しい価格設定をされていることから、悩ましいところばかりです。

「胃腸炎を防げるんだったら打った方がいいとは思うけど、副作用も怖いしどうしたらいいんだろう?」というお父さんお母さんはたくさんおられると思うので、できるだけわかりやすく小児科医が語りたいと思います。

ロタウイルスって?

冬の終わりから春先にかけて流行する胃腸炎の原因ウイルスです。
秋口から冬にかけて流行るのがノロウイルスですが、それと合わせて胃腸炎の2大原因ウイルスとされています。
胃腸炎全体の原因としてはノロウイルスの方が多いですが、乳幼児の胃腸炎の原因としてはロタウイルスの方が多く、日本では5歳までに95%の子どもがロタウイルスに罹患すると言われています。

症状としては、まず嘔吐、発熱が最初に見られ、1−2日して少し嘔吐が落ち着いてきたら下痢になっていくことが多いです。下痢はよく「米のとぎ汁様」と言われる様な白っぽい便が見られます。
一旦発症すると治療法はない一方で嘔吐、下痢の症状は強く、脱水のために点滴が必要になって入院することも多くあり、5歳未満の胃腸炎での入院の約半分をロタウイルスが占めます(残りはノロウイルスや夏風邪のウイルス、食中毒によるものです)。
厚労省の統計では、ロタウイルスによる胃腸炎で5歳までに入院する確率は2-7%程度とされています。

胃腸炎以外にも、ロタウイルスは脳炎・脳症を引き起こすことがあります。
脳炎・脳症は年間20-30例程度の発症があるとされており、難治性の痙攣や意識障害などの症状が見られ、死亡例や生存したとしても40%程度になんらかの後遺症が残るとされています。
ちなみに、脳炎・脳症の発症と胃腸炎の重症度について相関はなく、胃腸炎症状が軽症でも脳炎・脳症を起こすことがあります。

ロタウイルスの感染力は非常に強く、ウイルス粒子10-100個が口からお腹に入ると感染が成立すると言われています。ちなみに、ロタウイルスの患者さんの便中には1gあたり100億個くらいのウイルスが含まれているとの報告もあります。
体外に出た後の安定性も強く、手の表面であれば数日間、器物の表面でも1-10日間程度感染力を保持していると言われています。このため予防はなかなか難しく、保育園などで一度流行りだすと一気に感染が広まることがあります。

ロタウイルスのワクチンって?

ロタウイルスのワクチンは、ヒトやらウシやらのロタウイルスを弱毒化した生ワクチンで、お腹での免疫をつけるために経口で飲むタイプになっています。
生ワクチンなので、次の予防接種まで4週間以上空ける必要があります。

現時点で日本で使用できるものは2種類あり、ロタリックス®というのとロタテック®というのがあります。
難しい話をするとこの2つの違いは色々あるのですが、接種される側としての大きな違いは接種回数で、ロタリックス®は2回、ロタテック®は3回の接種が必要です。
効果については基本的には大きな違いはないと思ってもらって良いですが、ある1種類の型のロタウイルス(G2型)に対する防御能はロタリックス®の方が悪いのではないかという意見もあります(一方で問題ないという研究結果も報告されています)。
それを反映してかどうかはわかりませんが、臨床試験の結果はややロタテック®の方が有効性は高い結果が出ていますが、明確に差があるというほどではありません。
効果については少しだけ劣る可能性はある(あくまで可能性です)ものの、ロタリックス®は2回接種でよいというメリットから広く使われています。
僕もいろいろな病院にお手伝いに行って予防接種をしますが、ロタリックス®を使ってる病院の方が多い気がします。なんとなくですが。

ロタウイルスは生後3ヶ月頃から感染者数が増え始めることと、その頃から副反応の1つである腸重積が発症しやすくなるため、接種開始時期が厳密に決められていますので注意が必要です。

ワクチンの効果は?

以前に「その予防接種、本当に必要ですか?」で触れましたが、ワクチンの効果には接種した人をワクチンによって病気から守る「直接効果」と、ワクチンを接種していない人がワクチンを接種した人によって守る「間接効果」というのがあります。

わかりやすくするためにこの2つに分けてみていきましょう。

直接効果

ワクチン接種の直接効果はそれぞれのワクチンによって異なり、予防接種をすることによって感染が防げるものもあれば、感染は防げないけど発症や重症化が防げるというものもあります。
ロタウイルスのワクチンは後者です。つまりロタウイルスの感染は防げないけど、感染した後に胃腸炎を発症する確率や重症化する確率を下げることができるといことになります。

どのくらいの効果かと言うと、ロタリックスとロタテックで数字は少しずつ異なりますが、大体の効果として、胃腸炎の発症を70%前後、重症の胃腸炎(定義がはっきりしないですが、おそらく点滴を必要とするような状態だと思われます)を90%前後、入院を95%前後予防するという結果が出ています(上で触れたように、わずかではありますがロタテックの方が数字は上です)。
感染は予防できないとはいえ、なかなかの数字です。かなり効果は高いといえるでしょう。

実はこの有効率なのですが、国によって大きく異なり、先進国で高く、発展途上国で低くなるという結果が見られています。重症の胃腸炎予防の有効率について見てみると、先進国は大体日本と同じくらいの値ですが、発展途上国は軒並み50%強です。アフリカのマリなんて有効率が17%ぐらいしかありません。
この原因については色々と諸説あり、学問的には面白いのですがここでの内容とは関係ないので割愛します。
興味のある人は自分で調べてみてくださいね。

この効果がどれくらい持続するかについてはデータがあまりないのですが、少なくとも3歳までは有効との報告はあります。
日本では幼児期までの胃腸炎による入院は3歳までが約90%を占めているので、予防効果としてはひとまず3歳まであれば十分と考えられます。

ちなみに、上記のデータは重症といっても胃腸炎に関するもので、最初に触れた脳炎・脳症の予防効果についてのデータは現時点で見つかりませんでした(知っている人がいれば教えて下さい)。
胃腸炎の発症を抑制するので、脳炎・脳症も予防してくれそうな気はしますが、医学界においては論理的にこうあるはずだということが、実際には逆になることも多々あるので、さらなる研究が待たれます。

間接効果

ワクチンを接種すると胃腸炎の発症をある程度予防できるので、結果として環境中にばら撒かれるウイルスが減って家庭や保育園等での水平感染についてはかなり予防効果が高いとされています。
社会全体で見ても、10年ほど前からロタウイルスワクチンの接種を開始しているアメリカやオーストラリアでは、ロタウイルスの流行が減っているという報告もあり、ワクチン接種者が増えることで環境中のウイルスの減少も期待されます。

ワクチンの副反応は?

一番有名なものは腸重積です。
これは、現在の2種類のロタウイルスワクチンができる前にロタシールドというワクチンがあったのですが、このワクチンを接種した後に腸重積の発症が増えたことで発売1年後に市場から撤退するということがあって、腸重積という副反応がクローズアップされています。
現在の2種類のワクチンになってからも厳密なモニタリングが各国で行われていて、大体の報告では2万〜10万接種に1回くらいの割合で、ロタワクチンによる腸重積が起こるのではないかと言われています。
この割合は高いと見るか低いと見るかは人それぞれだと思いますが、腸重積自体は適切に診断して対処すれば、命に関わったり後遺症を残したりする可能性は低い疾患なので、全世界的にもワクチンのメリットが腸重積発症のリスクに勝ると判断されています。
腸重積の症状としては、間歇的な不機嫌、嘔吐、いちごジャム様の血便などがあるので、そういった症状が接種後に見られたら、速やかに医療機関を受診することが重要です。

その他の副反応としては、嘔吐、下痢、不機嫌、発熱などが報告されていますが、いずれも重篤なものは報告されていません。

また、ロタテックについては、接種後に体内で遺伝子組み換えを起こしてきょうだいに移ったと考えられる症例の報告がありますが、極めてまれで基本的には心配しなければいけないようなものではないと思われます。ロタリックスについては同様の報告は現時点ではなさそうです(あったら教えてください)。
このことからワクチン接種後の2次感染の可能性は低いとは思いますが、接種したワクチン株が接種後しばらくは便中に排出されるという報告があるので、オムツ交換などの後はしっかり手洗いをする方が無難です。 

結局接種した方がいいの?

ここまで見てきたように、腸重積発症のリスクは若干上がるものの、それを含めてもロタウイルスのワクチンは安全性が高く、なおかつ効果も高いことから、基本的なスタンスとしては接種をためらう必要はないと思います。
WHOの提言でも、ロタウイルスのワクチンはすべての国の定期接種スケジュールに組み込まれるべきと述べられています。

ただ、一つ問題があります。そう、値段です。
定期接種で無料であれば、上記のように接種をためらる理由はないのですが、合計で3万円程度という値段はそれだけで接種をためらう理由になります。「3万円なんて安いもんよ!」という方は遠慮なく接種してもらえれば良いと思います。
しかも、ロタウイルスに罹患して胃腸炎で命を落としたり後遺症を残したりする子どもは、世界には山ほどいますが日本にはほとんどいないと思います。そこら辺の病院に行って点滴してもらえばそのうち治ります。
命を落としたり、後遺症を残したりする原因となる脳炎・脳症についてはワクチンによる予防効果ははっきりとしていません。
命に関わることだったら3万円なんて安いでしょと言えるのですが、このことからはなかなかそうとも言いづらいところです。

結局、ロタウイルスのワクチンを接種するかどうかはこの3万円に見合うだけの効果がワクチンにあるのか?という話になってしまうのです。
以下、いち小児科医としての私見で述べさせていただくと、3万円が十分ペイすると考えられるのは以下の方々です。

①お金持ち

いわずもがな。

②2歳までに保育園等の集団生活を開始する予定がある

このグループに属する子はロタウイルス胃腸炎に罹患する可能性が極めて高いです。しかも、早いうちから保育園に入るということは、両親共働きの可能性が極めて高いと思います。
そのような状況で入院となると、いろんな意味でアウトです。仕事を休むなどということを考えれば、その経済的損失は医療費だけでなくなり3万円どころではありません。
入院せずに受診だけで済む場合も、何度か受診が必要になる可能性が高く、何れにせよ3万円以上の機会損失になるものと思われます。

③集団生活を送っているきょうだいがいる

自身が集団生活を送らなくても、きょうだいがいればロタウイルスをもらってくる可能性は高くなります。
胃腸炎になった場合のきょうだいの世話などを考えると、3万円は十分ペイするものと思われます。

④おじいちゃん・おばあちゃんなど胃腸炎にかかって欲しくない同居者がいる

間接効果で述べたように、家庭内での流行を防ぐのにワクチンは有効です。家族内にかかって欲しくない人がいる場合は接種する価値は十分あると思います。

⑤親が医療関係者

この状況では親から子どもに感染するのも、子どもから親に感染するのもいろいろな意味で避けたいところです。もし感染してしまったら...ということを考えると、3万円持ってけドロボーという気持ちになります。

⑥子どもの健康のためなら自分のお小遣いを減らしてもいい!という人

素晴らしいですね。その気持ちはプライスレスです。

⑦社会のためにロタウイルスの流行をできるだけ減らしたいと思っている人

さらに素晴らしいですね。その気持ちは文句なしにプライスレスです。あなたはマザーテレサですか?

最後に

最後の方は冗談みたいになってしまいましたが、いくら安全で効果があるからといって3万円は子育て世代にとってはなかなかの出費です。
「子どもの健康のためだったら3万くらい余裕で払えるだろ!」とか言いだしたら、もうそれはカツアゲしてるゴロツキの言い分みたいなものなので、無料化のためにできるだけ早めの定期接種化が望まれます。

国立感染症研究所の報告書だと、社会全体でみた費用対効果も充分ペイする感じで見積もられてたので、任意接種での国内のデータがある程度集まったら、そのうち定期接種になりそうな気はするんですが。
厚労省の偉いお役人さんにおかれましては、WHOのお墨付きもあることですし、速やかな対応をよろしくお願いいたしますよー。